序章 ー花芙蓉ー

 

 

 

 

 

 

まわれまわれよ花芙蓉
妖しく儚く軽やかに
踊れ踊れよ花芙蓉
お前が乞うのは妖か
お前が恋うのは人間か

 

 

 

 

 

 

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淡い色を湛えた空が、どこまでも高く澄みきっていた、ある日のこと。
秋の豊作を祝う収穫祭に、その日、街は沸いていた。
たくさんの露天が立ち並ぶなか、見世物をするための空間が設けられた広場に輪のような人だかりができている。
その輪に囲まれた空間の中心には、数人の楽士達と、静かにたたずむ踊り子がひとり。
彼女が纏った薄絹の衣装を、吹き抜ける一陣の風がふわりと舞いあげた。
それが、合図。
楽の音が鳴り響き始めるとともに、形の良い、紅い紅い唇の端がついと愉しげに吊り上げられる。
大気に溶け込んだ音達を抱きかかえ、紡ぎあげるように腕をくねらせれば、しゃらり、と腕輪につけた鈴が涼やかな音色を奏でた。
独特の調子を以て奏でられる楽の音に合わせて拍を刻むように地を蹴っては、風に乗せ、ひらりひらりと羽衣を翻して舞い踊る。
蝶のように軽やかな舞でありながら、何より目を引くのは、その艶やかさ。
目をそらすことなど赦されないと思ってしまうほどの、あまりに凄絶な色香に、空気の粘度が増したかのような錯覚さえ覚える。
やがて、花のように華やかな軽やかさと、ヒトであることを疑いたくなるような艶やかさで場を彩った踊り子は、楽の音とともに静かにゆっくりと、祈るように膝を折って、舞を納めた。
澄みきった水面のような静寂が流れる。
しかしそれは刹那のことで。
一拍の間を置いて、わっと歓声が上がった。
客の前に置かれたかごの中に、次々と硬貨や紙幣が投げ込まれる。
賑やかな声の渦の中心で、踊り子は……芙蓉は、すっと立ち上がり、鮮やかに微笑ってみせた。
誰もがはっと息を呑むほど、妖艶に。

 

 

 

 

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