靴守り



ワンライ(1時間でお題に沿って短編を書く)というものに挑戦してできた代物ですので粗が目立ちますが、その辺は目をつぶっていただければと…

お題は、『ヒール』『お守り』『記念日』でした。

 

 

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いつもいつも忙しくて、なかなか取れない休日。やっと政務やいろいろな行事が落ち着いてきて、やっと取れた休日に、ヴォルクはサクルの部屋を訪ねた。

「…サクル、居るか?」
「ええ…って、え、ヴォルク?!」
扉越しにそう声を掛ければ、サクルがその蒼い目をまるくして、夫を部屋へ招き入れた。
国の長だとはいえ、仮にも夫婦であるはずのふたりはその忙しさゆえになかなか顔を会わせることができない。それでもサクルは度々ヴォルクの部屋へ訪れていたのだが、ヴォルクがサクルの部屋へ訪れたことはなかった。
だからこうして訪れてくれたことが、驚きであり、嬉しくもあり、面映ゆくもあった。
「えっと、あの、散らかっててごめんなさい! あの…ここ、座ってね。あ、なにか飲む?」
「いや、大丈夫だ。…そんなに慌てるな」
「うぅ…」
今の今まで裁縫をしていたらしいサクルは、顔を真っ赤にしながらぱたぱたと道具を片付けていく。普段の堅苦しい敬語をどこかへ放り出したことにも、今は気づいていないだろう。
そんな初々しい、幼くも見える妻を、指定されたソファに座ったヴォルクは柔らかな眼差しで見ていた。その瞳に気づいたサクルもまた、赤みの残る顔で、ほっとしたように微笑む。
「ヴォルク、笑うようになったね。すごく、表情が柔らかくなった」
「そう、か…?」
「うん」
片付け終えたサクルが、ヴォルクの隣にちょこんと座る。そして、ことんと首を傾げた。
「でも、珍しいね、ヴォルクがわたしの部屋に来るなんて」
「ああ…渡したいものがあってな」
そう言って、ヴォルクは持ってきた箱を開いた。中のものを傷つけないためであろう、箱の中の柔らかな布を捲れば、そこには。
「…これ、靴…?」
素朴だが、繊細な透かし編みの入った薄布を使ってさりげなく華を添えた、少しかかとの高い美しい靴が入っていた。幸福を呼び、災厄を避けるという蝶の、金で作られた控えめな飾りが愛らしい。
「本当は、お前がこちらに来たときに渡さなくてはいけなかったんだが…」
ヴォルクは渋い顔をした。サクルも苦笑する。
サクルがダジル国へ嫁いできたあのときは、本当にいろいろあってそれどころではなかったのだ。
だから仕方ない、とサクルが言えば、ヴォルクはさらに眉根を寄せた。
「だからこそだ。…これは、御守りのようなものだから」
「…おまもり?」
きょとりとして聞き返すと、ヴォルクは頷いた。
「ああ。…お前に、禍が降りかからぬように。そして…お前が、幸せであるように」
はっと、サクルは顔をあげた。
視線が、ヴォルクの暖かな深紅の瞳にぶつかる。
(ああ、こんなにも大切にされている…)
暖かな思いが胸に溢れて、雫になって眼からこぼれた。途端にヴォルクが焦りだす。
「え、あ、気に入らなかったか?!」
その問いに、サクルはぶんぶんと首を振って、微笑んだ。
「…ありがとう」
涙に濡れた瞳で笑うサクルに、ヴォルクは一瞬目を見開き、照れたように笑った。
「…履かせてみても、いいか…?」
「うん、お願いします」
ヴォルクの武骨な手が、白くほっそりとしたサクルの足に、恭しくその白い靴を履かせていく。
繊細な飾りが、サクルの愛らしさによく似合った。
「似合ってる」
「…そうかな…?」
「ああ、とっても」
そう言って笑いあう若き国王夫婦は本当に仲睦まじく、また微笑ましく。

 

扉を開けていたために、それを偶然見かけたリシッツァ叔父上に、
「昨日は靴守りの記念日だったみたいだね?」
と、からかわれたとか。

 

 

 

 

 

【靴守り】

君の行く手に、幸せが満ちていますように。




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